事故までの経緯、練習内容の詳細、自分なりに考えた原因と反省点および今後の課題等
<トラブル概要>
船酔いによる吐き気を我慢しながら潜り、体内のBO限界感覚から、いつもよりBO限界が
近いことを予見して、対処を考えながら浮上し、浮上直後にBOした事例。
<状況詳細>
この日は海況が悪く、最初は普段の場所での練習は中止し、ビーチ付近の浅い場所での
練習とする予定としており、そうと決めた時点で、パン等を食べてしまっていた。
(ただし、潜る前に食べるのは実は時々やっており、本人の経験上は特別悪い要因とは限らない)
その後、普段通りの場所が意外と穏やかという情報から、再度練習場所を戻した経緯がある。
うねりが1m弱あり、海況があまりよくなかったが、沖縄大会を1週間後に控えており、
「沖縄ではこのくらいのうねりは普通」ということから、「少々酔っていても潜れるようになりたい」と
密かに考えていた。
船上でセットアップしている時から順調に酔い始め、ウォーミングアップで酔いは膨れ上がり、
カウントダウンと共に吐き気がピークを迎えていた。
申告は48m、1分30秒。ただし、この時点で申告深度にこだわる気は完全に失せていた。
パッキングしたら吐くゆるぎない自信があったため、パッキング無しで潜行開始。
最近、息を止めて歩くトレーニング(?)にて、体内のBO限界感覚をかなり把握できている。
頚動脈付近の血管の壁から感じる血液の味(おいしさと温度)だが、人に伝えるのは難しい。
吐き気をこらえながら潜行していくと、20mまでには、線図の傾きが急角度に感じられ、
BO限界がいつもより早く訪れる事を確信。
いつもの1/2BO時間相当の「味」を感じた時点で減速。深度はたったの39m、38秒。
ターゲット中止と決め、ロープを一回掴んで浮上に転じたのが43m。41秒。
浮上は少々焦り気味で、主に腹筋を使った速い泳ぎ方となっていた。
サポートとアイコンタクト。この時点では意識ははっきりしていたが、BO限界が近いと認識。
残り2m位で、浮上直後にBOすると予見し、水深0.5m付近のロープを掴んだ。
浮上速度のまま水面に出、1回目の呼吸をしながら、すぐにロープの高い位置を掴みなおした。
ダイブタイムはわずか1分12秒。
視界が暗くなり、頭が後ろにのけぞった。体の自由は利かない。
背後からサポート二人でロープごと抱えるように、身体をうまく支えてくれたのが分かった。
右手の二の腕の筋肉中に酸素が残っている感覚はあったので、ロープを掴む握力を意識し、
肺→心臓→頚動脈の順で「おいしい」血液が上がって来るのを感じながら、意識回復を待った。
本人の感覚では、視界が暗かったのは10〜15秒間程。
意識が戻って呼吸が落ち着いた後、とりあえず少し吐いた。
BOによる頭痛は無かったが、その後は船上で過ごし、とにかく船酔いで吐いた。
その後の2時間程度は血圧がかなり低く感じられ、立ちくらみが頻発。
昼食時に食塩をおよそ1g余分に摂取。食後20分間程度で急速に回復した。
<まとめ>
教訓としては、下記。
- 吐き気を我慢して潜ると、BO限界が近い。
これは、船酔いによって血圧が低くなっていることや、リラックスできず酸素消費が抑えられない
ことによると考えられる。
また、浮上直後の呼吸時、腹に力を入れる気力が無く、十分なフッキングができないことも
原因の一つと考えられる。
- 物を食べた後は酸素消費量が多い
- BO限界に向かう体内の感覚把握は有用。
今回、ターゲット中止を判断している付近のBO線図が、最も感覚希薄な領域であり、
精度不足でBO領域に達してしまったとも言える。
体内のBO線図感覚が1本の線として完全につながり、精度が十分に得られれば、
BOを避ける直接的な判断基準として使えると考える。
「感覚を把握するために、これからも堂々とBOします」、とは言えないところがつらい。
<後日談>
その1週間後、大会でBO限界線図イメージを元に、ダイブタイム軸で申告深度を決定。
無事PB更新を果たせたことで、BO限界線図の感覚はより実用的になったと、本人は
こっそり本気で考えている。
- ※1 体内の感覚や血圧については、完全に本人の主観によります。
- ※2 時間はダイコンのログ読み値のまま。潜行開始時に応答遅れがあり、実際は+5秒程度。
|