LMC・BO体験レポート

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レポート

種別BO or LMCBO
環境日時2012年7月7日(日) 10時00分頃
場所海洋
水流表面のみ少々
水深ボトム設定48m
水底
水温22℃
気温23℃
水質透明度 8m程度
状況練習内容(種目等)コンスタント・ウィズアウトフィン
事故発生タイミング練習前半 ターゲット
前日の睡眠時間2時間
普段の平均睡眠時間3時間
事故前の心境ゲロを吐きたい一心だった
事故前の体調船酔い
個人普段の食生活割と栄養バランスに気を使っている。
定期トレーニングランニング(週2回程度)
酒・たばこなし
体格・性格等身長165cm,体重60kg,理屈っぽい性格
船酔いに弱い。
本人見解

事故までの経緯、練習内容の詳細、自分なりに考えた原因と反省点および今後の課題等

<トラブル概要>
船酔いによる吐き気を我慢しながら潜り、体内のBO限界感覚から、いつもよりBO限界が 近いことを予見して、対処を考えながら浮上し、浮上直後にBOした事例。

<状況詳細>
この日は海況が悪く、最初は普段の場所での練習は中止し、ビーチ付近の浅い場所での 練習とする予定としており、そうと決めた時点で、パン等を食べてしまっていた。
(ただし、潜る前に食べるのは実は時々やっており、本人の経験上は特別悪い要因とは限らない)
その後、普段通りの場所が意外と穏やかという情報から、再度練習場所を戻した経緯がある。
うねりが1m弱あり、海況があまりよくなかったが、沖縄大会を1週間後に控えており、 「沖縄ではこのくらいのうねりは普通」ということから、「少々酔っていても潜れるようになりたい」と 密かに考えていた。
船上でセットアップしている時から順調に酔い始め、ウォーミングアップで酔いは膨れ上がり、 カウントダウンと共に吐き気がピークを迎えていた。
申告は48m、1分30秒。ただし、この時点で申告深度にこだわる気は完全に失せていた。
パッキングしたら吐くゆるぎない自信があったため、パッキング無しで潜行開始。
最近、息を止めて歩くトレーニング(?)にて、体内のBO限界感覚をかなり把握できている。
頚動脈付近の血管の壁から感じる血液の味(おいしさと温度)だが、人に伝えるのは難しい。

普段のBO限界線図イメージ

吐き気をこらえながら潜行していくと、20mまでには、線図の傾きが急角度に感じられ、 BO限界がいつもより早く訪れる事を確信。
いつもの1/2BO時間相当の「味」を感じた時点で減速。深度はたったの39m、38秒。
ターゲット中止と決め、ロープを一回掴んで浮上に転じたのが43m。41秒。
浮上は少々焦り気味で、主に腹筋を使った速い泳ぎ方となっていた。
サポートとアイコンタクト。この時点では意識ははっきりしていたが、BO限界が近いと認識。
残り2m位で、浮上直後にBOすると予見し、水深0.5m付近のロープを掴んだ。
浮上速度のまま水面に出、1回目の呼吸をしながら、すぐにロープの高い位置を掴みなおした。
ダイブタイムはわずか1分12秒。
視界が暗くなり、頭が後ろにのけぞった。体の自由は利かない。
背後からサポート二人でロープごと抱えるように、身体をうまく支えてくれたのが分かった。
右手の二の腕の筋肉中に酸素が残っている感覚はあったので、ロープを掴む握力を意識し、 肺→心臓→頚動脈の順で「おいしい」血液が上がって来るのを感じながら、意識回復を待った。
本人の感覚では、視界が暗かったのは10〜15秒間程。
意識が戻って呼吸が落ち着いた後、とりあえず少し吐いた。
BOによる頭痛は無かったが、その後は船上で過ごし、とにかく船酔いで吐いた。
その後の2時間程度は血圧がかなり低く感じられ、立ちくらみが頻発。
昼食時に食塩をおよそ1g余分に摂取。食後20分間程度で急速に回復した。

<まとめ>
教訓としては、下記。

  • 吐き気を我慢して潜ると、BO限界が近い。
     これは、船酔いによって血圧が低くなっていることや、リラックスできず酸素消費が抑えられない
     ことによると考えられる。
     また、浮上直後の呼吸時、腹に力を入れる気力が無く、十分なフッキングができないことも
     原因の一つと考えられる。
  • 物を食べた後は酸素消費量が多い
  • BO限界に向かう体内の感覚把握は有用。
     今回、ターゲット中止を判断している付近のBO線図が、最も感覚希薄な領域であり、
     精度不足でBO領域に達してしまったとも言える。
     体内のBO線図感覚が1本の線として完全につながり、精度が十分に得られれば、
     BOを避ける直接的な判断基準として使えると考える。
     「感覚を把握するために、これからも堂々とBOします」、とは言えないところがつらい。

<後日談>
その1週間後、大会でBO限界線図イメージを元に、ダイブタイム軸で申告深度を決定。
無事PB更新を果たせたことで、BO限界線図の感覚はより実用的になったと、本人は こっそり本気で考えている。
※1 体内の感覚や血圧については、完全に本人の主観によります。
※2 時間はダイコンのログ読み値のまま。潜行開始時に応答遅れがあり、実際は+5秒程度。

サポート見解

事故までの経緯、徴候、事故後の対処、そのた他気づいた点等

BOの経緯及び状況についてはM09Bさんのレポートに間違いはありません。
水中のM09Bさんは意識もしっかりしており、浮上後のBOを予見できなかったくらいです。
船酔いとの関係については自分が揺れに強いのであまり気にしていなかったことと、 M09Bさんはこれまでも船酔いしながら50Mのダイブを成功させていたことを知っていたので BOの危険性はそれほど強く感じていませんでした。
ですが、今回のM09Bさんの具合の悪さ(客観的にみたものですが)は今までの中でも 一番酷かったことは間違いありません。
また、今回のBOは浮上後に呼吸を開始した途端に急に来たように見受けられたので、 ジャッジの意見にもあるとおり、低血圧(船酔いすると血圧が低下するのでしょうか??)に よるものかもしれません。

ジャッジ見解

事故までの経緯、徴候、事故後の対処、そのた他気づいた点等

状況的には当事者の見解の通りだったと思います。浮上してロープに掴まっていましたが、呼吸をした 後に直ぐ反るように後ろに倒れていきました。
 正常な浮上後のBOは息を吐くことによって血圧が下がり、脳に十分な酸素が供給されないことで 起きている可能性が高いです。ディープを潜るダイバーは、目安として水中でセキュリティーと合流 する深度から浮上後の血圧低下を防止するために、お腹に力を入れたり、浮上後は強力な フックの呼吸(少し息を吐いて強引に吸い込むイメージの呼吸)を意識することが重要になってくる と思います。浮上後、血圧の急低下を防ぐ方法をいろいろ考えてみてはいかがでしょうか?