LMC・BO体験レポート

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レポート

種別BO or LMCBO
環境日時2013年9月29日(日) 11時13分頃
場所海洋
水流ややあり
ターゲット水深38m
水温25℃
気温27℃
水質透明度 10m以下
状況練習内容(種目等)コンスタント
事故発生タイミングターゲット時
前日の睡眠時間ぐっすり?4時間(+車内で浅く1時間)
普段の平均睡眠時間6時間程度
事故前の心境平常心(と感じていた)
事故前の体調問題なし(と感じていた)
個人普段の食生活昼食・夕食・夜食
定期トレーニング週1〜2のプール練習・週3程度の自転車練習・ストレッチなど
酒・たばこほぼ毎日晩酌。程度はまちまち。たばこは一切やらない。
体格・性格等痩せ型。
元来攻撃的だが、神経質な上に追い込まれると脆い。
本人見解

事故までの経緯、練習内容の詳細、自分なりに考えた原因と反省点および今後の課題等

朝5時に起床した段階で短時間睡眠ながらぐっすりと眠れた感覚があり、耳の調子もよさそうだったので「今日のターゲットはいける」と考えた。しかし、道中に車中で1時間寝て起きた際、異様に寝起きが悪く、強い苛立ちを感じていた。出港ギリギリまで仮眠をとる。

アップの際、耳抜きがほぼ理想的な状態であった。アップは10mフリーイマージョン2本と20mウィズフィン1本。心理的な不調も海に入り緩和され(海が心に安寧をもたらすのはいつものこと)た「快調である」と思い込んでしまったため、ターゲットをブリーフィングでの申告37mから38mへ変更した(PB+2m)。ただし、先の精神的不安と+2を鑑み(今までは30m以降1mずつ刻んでいた)、サポートへは15mをお願いした。

パッキングは練習と変わらず30回、やや荒れた海面だったが問題なく詰め込めた。ボトムでもフレンゼルですぐに抜けた。浮上時にやや体が重いような気がしたが、特別に耐え難い苦しさは感じなかった。

浮上し、サポートがはっきり見えた。もうすぐかな、と思いなんとなくダイコンを見て9mを確認し、ストリームラインを取った瞬間にいきなり意識の糸が途切れた。「苦しさのはてに」や「力尽きた」ではなく、あまりにも唐突なブラックアウトだった。

サポートの迅速なレスキューがあったため命に別状はなかったが、かなり重度のブラックアウトであり、海面浮上後20〜30秒間意識が戻らず、また強固に口を結んでいたためその間の気道確保が困難であったとのこと。また、朦朧状態が続いており、はっきりと記憶にあるのは船上で別のメンバーから「ウエイト外して」と言われたくらいから。合計で3分程度記憶を喪失している。その間、当方の感覚では『2つ同時にストーリー性のあるサイケデリックな夢を見ていた』であり、意識が戻った瞬間は自分が何者でどこで何をしているのかわからなかった。いつ意識を失ったのかも覚えていない。

いわゆるディープウォーターブラックアウトのなかでもどちらかといえば異質な部類であろうブラックアウトに至った理由はいくつか考えられる。

1: 身体的不調
当日前の2週間きわめて多忙で、一切運動らしい運動をできていなかった。半月で急激に筋力が低下するとは考えづらいが、ダイコンのログを見るにあきらかに浮上速度が遅い。ターン時に感じた"重さ"が身体的な原因である可能性は否定できない。
2: 精神的不調
上述のとおり業務において心理的負荷が絶え間なくかかっており、このところ精神の平衡を保てていたとはいい難い。海に入ることで主観的には精神安定と感じていたが、その実は興奮状態で無用な酸素を消費するなどしていた可能性は大いにある。ただし、心拍は平常であった。
3: 睡眠不足
心的ストレスから若干強力な不眠を引き起こしていた。睡眠不足により極端にパフォーマンスが低下していたとも考えられる。不眠症は付き合いの長い持病であるが、ここ数日は睡眠がとくにおかしく、寝たのか寝ていないのかわからない日が続いていた。
4: 技術の欠落
そもそも30m以深に潜行するにあたり必要な技術が複数欠落している。今回サポートからも指摘があったのは、不必要なマスクブロウ。自分でもマスクブロウの頻度が高すぎることは自覚していたが、あらためて「上がってくる泡が多い」と評され反省した。体調云々はともかく、単純な物理的挙動で制御できる部分は最適化しなければならない。
5: 異常行動
大きく3点。1. 申告ターゲットを1m直前になって伸ばしたこと。2. 通常は見るはずもなくその必要もないダイコンをチェックしていたこと。3. 浮上時だけは意識している腹筋を使ったキックができていなかったこと。4. ダイブタイムの申告が直前にぶれたこと(1分30秒と言った直後に1分20秒に変更、ダイコンの記録時間は1分25秒)、いずれもやっている時にはまったく疑問を感じなかったが、振り返れば完全な奇行である。

以上のように、今回やや危険なブラックアウトに至った。上述の点について潜行前に気付けなかったのは重大な過失だが、一番の問題はブラックアウトする危機感を「感じられなかった」ことにある。実体験としては、シグナルとして尿意・視野の変化・脱力などを感じたことは今までにもあった(プール練習にて)。しかし今回はそれらと息苦しさを含めた兆候を感じ取れず、サインを出すなり潜行ロープを掴むなりといった対応ができなかった。人生初のブラックアウトだから予兆を感じられなかっただけという見方もありうるものの、私の感覚ではいきなり意識が途切れたとしか感じられなかった。前後の記憶が失われてしまったこともそれに拍車をかけている。

今後の対応・対策としては

A: 運動不足の解消
B: 精神の不均衡の是正
C: 最低限の潜行テクニックの改善
D: 血中酸素分圧低下時の耐性向上
などが考えられるが、正直に告白するとこれらを満たしていたとして今回のブラックアウトが回避できたとは思えない。ほぼ常に一緒に練習会に参加している者からも、「これまでの記録や状況から考えると、正常な状態であれば38mでブラックアウトするとは考えにくい」と評価された。事実、前回36m潜ったときはかなりあっさりしたものだった。30m以深の2mが重大であることはわかるが、あまりにも生理的反応の乖離が異常である。

頭痛や吐き気といった、脳にダメージがいった際の典型的な症状は今のところ出ていないが、今後数日でどう変化するかわからない。また、現時点では恐怖感があまりに強く残っている。海に対して、というよりもっと漠然とした不安を感じてしまっている。

反省点や対策は上記のとおりだが、正答が並んだ回答ではありえない。今の感覚は「本当にどうしようもない」である。よって、今シーズンのウィズフィンターゲットはすべて棄権する。同じか類似した症状が出ないかより浅い深度での潜水を反復しデータを取ることを最優先とする。

なお、今回のようなケースについて、「船上引き上げの練習をしたほうがよいのではないか」という意見が出た。たしかに20〜30秒の意識喪失・気道閉塞というのは判断限界すれすれの時間帯である。これ以上となると引き上げからの CPR への移行がありえただろう。今のところメンバー内では船上への溺者引き上げスキルは行き渡っているとはいえない。スーツと溺者役に少なからずダメージがいくので軽々には実地訓練できないが、適切な手法をシミュレーションする機会はもうけるべきだろう。

最後に、レスキューしてくださったサポートのお二方ならびにメンバーの皆様に重ねてお詫び申しあげます。

【追記】
サポートのお二方と話し合ったところ、ハイパーベンチレーションが原因の一端だったのではないかという仮説が出た。私は海・プール問わずオフィシャルトップ1分前に3回ハイパーベンチレーションするようにしていた。気圧差のないプールよりも海では酸素分圧への影響が比較的大きく出ると考えられる。エントリー前の呼吸法も練り直す必要がある。

【追記2】
メインサポートは危険察知しており、体力温存のためフリーイマージョンで潜行していた。傍目に危なく映っていたことが伺える。これについて、「嫌な予感がしていた」とのこと。動きや発言には問題はなかったものの、「自信より不安が勝っている」と直感的にリスクを感じとれたという。なかば第六感めいた部分もあるが、サポートのメンタリティとしてはこれ以上ないものであり、私がサポートにつく際には常にそうした機微を感じ取れるようになりたい。

サポート見解

事故までの経緯、徴候、事故後の対処、そのた他気づいた点等

【サポート見解(メインサポート)】
  • ダイブ前 ブリーフィングの際に「サポートをしっかりお願いします」と話してしていたので、達成信頼度が少ないのだろうと感じました。 本番、カウント前に選手に希望のサポート深度を伺い-15mまで向かいに行く事で確認しました。
  • 水中 -15mから並んで浮上、目や表情を確認した感じでは全く問題ありませんでした。 -9mでダイコンを確認された後少し脱力と言うか、安心して気が抜けたように見えました。 体感で-5m〜4m付近で口から息が盛れるのを確認して間髪入れずレスキューに入りました。引き上げ時間は3秒〜4秒ぐらいだと記憶しています。
  • 浮上 気道確保と呼びかけを行いましたがなかなか戻ってこず、吹き込みを行なおうと思った時(浮上12秒程)で口から泡を噴出。その後、徐々に呼吸を開始しはじめました。 呼びかけに反応するまでは30秒ぐらいの時間はかかったと記憶しています。 これまで大会などでBOを見る機会はありましたが、今回のBOはかなり深かったと思います。
  • サポートに付いて 私自身プールを含めたBO引き上げを行うのは始めてでしたが、これまでのデブリーフィングでの教え「大会ではないので疑わしきものはすぐサポートする」と 特に今回は選手からのブリーフィング前のコメントとカウント前のコミュニケーションでかなり緊張感を持ってサポートに入れた事は良かったと思います。
【サポート見解(サブサポート)】
  • サブサポートの対応
    サブサポートだったので私は水面にて様子を見ていました。 透明度が悪く、8mくらいのところでやっと選手が見えましたが、泳ぎがかなり弱々しかったです。 その後、選手が泡を吐いてメインサポートがレスキューしたのであわてて自分も潜行しました。 浮上後は、口が少ししか開いていなかったので、顎を強く引っ張って口を開けようをしましたが硬くてほとんど開きませんでした。 意識がはっきりするまで20秒くらいかかっていたと思います。 あとはメインの見解どおりです。
  • 反省点及び今後
    今回はメインの息が長く、判断も早かったので何とかなりましたが、今回のような透明度で浮上が遅い場合、臨機応変にサブも確認に少し潜るのも有りかと思いました。(議論が必要ですが) もしくは、選手が少し自信の無い場合、周りが少し危ないと判断した場合はサポート人数を3人にする手段もあると思います。

【ジャッジ見解】

状況は当事者、及びサポートの見解通りだと思います。

今までのスタティックの記録や海洋練習でのターゲットの状況より38mは無理なチャレンジとは思っていませんでした。そのため、ここ一週間の仕事の状況や練習場所への移動中疲れているように見えていたものの「調子が良い」という本人の言葉を真に受けてストップをかけることはしませんでした。

申告タイムは1分20秒。申告時間の5秒前になっても上がってくる気配がなく、申告時間過ぎたあたりでサブサポートより浮上サインがありました。その数秒後、BOした状態でメインサポートによって引き上げられたと記憶しています。

浮上後はすぐに呼吸と意識が戻らず、危ないと思い船上から「口を開けて!」と叫びました。
サブが無理やり口をこじ開けて呼吸は戻りましたが意識がなく、船上からも何度か呼びかけをしてやっと意識が戻ったような状態でした。実際のところ、意識は朦朧としていたようで完全に意識を回復して話せるようになったのは船上に戻ってからだったようです。

  • 反省点
    船上から全体を見れる立場における反省点としては、以下のとおりです。 今回のBOは呼吸や意識回復までに時間がかかったため、いつもレスキュー練習でやっていることではありますが改めて1秒でも早く回復できるよう自分自身ができることを考えました。
    1: 「頬を軽く叩いて」や「鼻から息を吹きかけてみて*」など、気道確保や意識回復に対する呼びかけがもう少しできたのではないか。
    2: 「口を開けて」という呼びかけももう少し早くできたのはないか。
    3: 直ぐに呼吸や意識回復しないようであれば、その場の海況を見てマスクを外すことを呼びかけるべきではなかったか。
    (今回はマスクはとりませんでした。恐らく波が少しあったからだと思います。)
    *「鼻から息を吹きかけてみて」は、大会でサポートをした際にジャッジより鼻から息を吹きかけるのは意識回復に有益との意見がありました。