LMC・BO体験レポート

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レポート

種別BO or LMCBO
環境日時2009年6月6日 10時30分頃
場所海洋(水深50mのポイント)
水流わずか
水深浮上後の水面
水底50m(ボトムプレート35m)
水温19℃
気温22℃
水質透明度 表層5m程度, 15m以深15m程度
状況練習内容(種目等)コンスタント・ウィズフィン
事故発生タイミング練習中盤
前日の睡眠時間6.5時間
普段の平均睡眠時間7時間
事故前の心境シーズン2回目の海洋練習で、色々と思い出しながらではあったが、 意欲的かつ冷静だった。
事故前の体調良好。暑がりな体質なので、水温19℃は全く問題無し。
個人普段の食生活栄養バランスに気をつけている
定期トレーニングランニングと呼吸ストレッチをほぼ毎日
酒・たばこ酒は1〜2回/週で少量,たばこは嫌い
体格・性格等身長165cm,体重61kg,極めて理屈っぽい。
本人見解

事故までの経緯、練習内容の詳細、自分なりに考えた原因と反省点および今後の課題等

<概要>

ターゲットダイブにて、ボトムからの浮上時にラニヤードがタグ保持具にからまり、リリースに 時間がかかった結果、浮上直後に閉息時間が限界を迎え、BOに至った。

<詳細経緯>

ウォーミングアップは15m,10mの2本で、軽めに終えた。
海況,体調,精神面に問題は無く、ターゲットダイブは自己新となる35mを申告した。
この1週間前の練習では32mに成功しており、息苦しさも肺のスクイズも余裕があった為、 現実的な目標としての35mだった。
潜水時間はサポートに聞かれ、「1分強」と答えた。
自分の潜行速度はおよそ1m/秒,浮上速度はそれよりもう少し速いからだ。

カウントダウンを聞きながらパッキング10回行い、潜行開始。
途中、ダイコンで10m,9秒を確認。順調と判断し、キックを弱め、グライドを長くする。
目を半ば閉じて何も考えない様に精神統一し、静かに沈む。

肺のスクイズ感から、前回の32mを超えたと感じ、眼を開ける。
ボトムプレートがすぐ近くに見える。右手首のダイコンは32m,30秒。
肺と喉の圧迫感は初めて体験するものだが、我慢できないようなレベルではなく、 むしろ、少し、あ、いいかも。と、真剣に考える。
右手でガイドロープのゼブラゾーンをつかみ、左手でタグを取る。
右手のダイコンは34.4mを示している。

ふと、タグを紛失した時にダイコンの記録を証拠とするため、テクニックの一つとして ダイコンを下にするという話が、頭をよぎる。
体の向きを、頭を上に変更するついでに、ロープをつかむ手を左手に替え、右手の ダイコンを下げて表示が35mになることを確認。
順調さに満足しつつ、初速をつけるべくガイドロープを強く引き、浮上を開始した。

その途端、左手首のラニヤードがガクンと引き止められた。

ラニヤードのガイドロープ側カラビナに、洗濯バサミとカラビナからできているタグ保持具が からまっており、摩擦でガイドロープをロックした状態になっている。
(画像:再現写真(1),タグ保持具 参照)
一見簡単に振りほどけそうに見えたため、カラビナまで1m程下がり、つかんで2回揺する。
なぜか、外れない。

私のラニヤードは、φ2mm,長さ1mのステンレスワイヤーに、ガイドロープ側には スナップシャックルを介してカラビナが繋がっており、手首側にはトリガースナップを介して リストバンドが繋がっている。
(画像:ラニヤード_対策前 参照)
スナップシャックルとトリガースナップの両方が緊急リリースとして使える構造だ。
トリガースナップは、ワイヤーを手でたどれば自然とトリガーに指がかかるシンプルな 構造だが、スナップシャックルのリリースピンには、目立つ様に黄色い玉を付けている。

緑色にくすむ海中で、つかんだカラビナのすぐ横に、その黄色い玉が浮いている。
玉をつかんで引く。が、外れない。
もう一度引く。やはり外れない。
外れたらすぐに浮上しようと焦るあまり、体は上に移動しつつあるのに対し、スナップ シャックルのリリースピンは下を向いている為、ピンが抜ける方向に引張れていない為だ。
(画像:再現写真(2) 参照)
心拍が早い。自分がパニックを起こしかけていると感じる。
時間を無駄にした事を悔やみながら、手首のトリガースナップをつかみ、あっさりと外した。

フィンキックで浮上を開始する。
3キックほどで考え直し、より効率良く浮上できる様、フリーイマージョンに切り替える。
ロープを手繰るストロークを大きく意識し、顎を引いて水の抵抗を減らす。
せめて脳の酸素消費を抑えようと、眼を半ば閉じる。
「酸欠で意識が飛ぶまであと30秒くらいか」
「ダイコンの表示を待った2秒が惜しい」
「嫁よ、こんなことになってごめんなさい」
「この速度なら水面まで意識は持ちそうだ」
「遺書は食器棚の引き出しだ」
精神統一しようとしても、私の脳みそは勝手に色々考えた。

迎えに潜行していたサポートと目が合う。
「何かあったな?」と、問いかけるような目で身構えている事が分かり、多いに安心する。
息苦しさのあまりか、このあたりから記憶は途切れ途切れになっている。
浮上速度はかなり速くなっているはずだ。ボートにぶつからない様にと、頭上を見上げ 方向を小修正する。
残り5m程か、水面が明るいのが嬉しくて、そこから目を離せなくなる。
視界の両サイドから暗闇が押し寄せてくる。
パッキングしている事に加え、水面に出たらすぐに空気を吸える様にと思い、息を吐き始める。

水面に出た。浮上の勢いのまま息を吸う。おいしい。
ガイドロープをつかんだ、らしい(自分ではこの動作を覚えていない)
マスクを額に持ち上げかけたが、BOによって再び顔が水没するかもしれないと思い、
スカートを顔から浮かせるだけにした。口と鼻から全力で空気を吸う。
何と言うべきか迷う。「I'm OK」は違うし、「I'm NG」では意味不明か。
とにかく自分が駄目な状況にある事を周囲に伝えようと、一言、
「駄目」
と言ってみた。
視界が完全に暗くなり、平衡感覚が無くなる。意思と関係無く、足が痙攣している。
サポートによってマスクが額に持ち上げられるのはうっすら分かった。

数秒で視界は明るくなった。
サポートが私を水面で仰向けにし、首を支えてくれている。
「息して〜、はい、息して〜」と呼びかけが心強かった。
数回呼吸する内に、息苦しさやめまいはすぐに消えた。
ボートに上がり、その後の練習はボート上から見学した。
ダイコンの記録はダイブタイム1分24秒、最大深度35.0mだった。
頭痛などは残らなかった。

<原因と対策>

原因については、「なぜなぜ」を用いて分析した。(別紙参照)

原因(1):タグを保持する洗濯バサミが比重軽く、水流で舞う
対策(1):ステンレス製洗濯バサミ,鉛入りタグ
(画像:対策(1) 参照)

原因(2):洗濯バサミのツマミ部がカエシになって絡む
対策(2):ツマミ部にガードとなるリングを設定
(画像:原因(2),対策(2) 参照)

原因(3):洗濯バサミの”しっぽ”が長く、洗濯バサミが舞う,絡む
対策(3):”しっぽ”廃止,ガードリングのみで連結する

原因(4):ガイドロープ側スナップシャックルのリリースピンに対し、手首側トリガースナップは
     操作方法が細かく(器用さを要求する)、存在感も小さい。
     スナップシャックル:玉を手(指3〜4本)で握って引く
     トリガースナップ:トリガーを指(1本)で引く
     パニック時には、よりラフな操作を選択しがち。
対策(4):手首側リリースを、スナップシャックルよりもラフな操作とするべく、構造変更。
     案としては、下記2種類を検討中。
     マルチアンカー:手(指5本)で握るのみ
     トリガースナップ改:手(指5本)で握るのみ
(画像:対策(4)-1,(4)-2 参照)

原因(5):ラニヤードをガイドロープにセットする際、スナップシャックルの”向き”を
     意識していない(再現写真(2)の状態に陥る)
対策(5):ラニヤードのカラビナとスナップシャックルに、リリースピンが上を向くように、
     合わせマークを追加した
(画像:対策(5)-1,(5)-2 参照)

対策品については、今後の海洋練習等でデザインレビューを行い、採否検討および 効果確認していく。

<反省点>

順を追って自分の行動をレポートに書いて見ると、随所に失敗があったと気付く。
主要な反省点を3つ下記に挙げる。

  • ラニヤードがからまった時は、ほどこうとするのではなく、まず手首のリリースを外すこと。
    「からまったら手首リリース」が反射的にできるようになるまで、レスキュー練習やイメージ トレーニングで体に覚え込ませるよう、反復練習したい。
  • トラブルで時間をロスした場合は、種目(コンスタント,ウィズフィン)に拘らず、 フリーイマージョン等、最も効率良く浮上できる方法に、即座に切り替えるべきだった。
  • ダイブタイムを精度良く意識する事
    ダイブタイムが何秒かは、サポートにとっても選手自身にとっても、非常に重要と感じた。
    その点、今回はサポートの方の優秀さに本当に助けられた。
    あらかじめダイブタイムを聞き、予定をオーバーしたら身構えるという、生きた サポート体制を感じた。自分がサポートする場合も、あの様になりたいと思った。
    また、自分にとって効率の良い潜行速度,浮上速度を知る練習も必要だと感じた。

最後になりましたが、私をサポートして下さった皆さん、本当にありがとうございました。
おかげで元気にまた潜る事ができます。
また、多大なご心配をおかけしましたこと、誠に申し訳ありません。
せめて、この経験から得られる教訓が、チームの今後の活動や器材改良に活用される様、 色々と考えていきたいと思います。

サポート見解

事故までの経緯、徴候、事故後の対処、そのた他気づいた点等

 申告タイムは1分強でしたので、選手が潜行開始後、30秒でサポートに潜行、通常ならばー10m前後 で浮上してくる選手が見えてくるはずですが、今回は見えてこない。最初は自分が早く潜行したの かな?と思い-15m近くまで行ってちょっと待つ、まだ見えない。時間も私が潜行して30秒以上経過して いたので、カウンターバラストを作動させるために浮上しようか迷う。その時、選手が浮上するのが見え てきた。FIでしたがちゃんと浮上して来たので-15mで待つ、そして合流。時間が遅くFIで浮上してきた ので何かあったのだろうと推測しアイコンタクトを送ると意識や動作はしっかりとしていた。
やや浮上速度は速いと思ったが、問題なく浮上していたので併走して浮上、水面に上がったと同時に サポートし易いように選手の側面にポジションを取ったため顔の表情は判らなかったが、ロープを しっかり掴んでいたので大丈夫だと思った。
しかし、後ろに倒れるように大きく体をそらし、ロープから手が離れたので直ぐ体を支え、気道の確保を 行った。マスクを取ってあげると、呼吸の確認はすぐに出来た。

日頃から練習していたおかげで、サポートはスムーズに出来たと思う。ただカウンターバラストの作動の 判断が遅かったかも知れない。もしボトムでランヤードの解除が出来ていなかった想定したら、 もっと早く作動させても好かったと思う。

補足

※ 今回のBOについて本人が詳細な分析資料と解決案を作成してくれました。
※ 実際の問題解決についてはさらに検討が必要です。