LMC・BO体験レポート

※ 下記に記載されている事項について、その内容の誤りや不正確な表現などにより、 あなたまたは第三者が、有形・無形を問わずどのような損害を受けた場合であっても、 本団体および下記に記載している事項の作者を含め、何人も一切の責任を負いません。

レポート

種別BO or LMCBO
環境日時2010年10月11日 11時30分頃
場所海洋
水流なし
水深52m
水底不明
水温23℃
気温不明
水質透明度 8m程度
状況練習内容(種目等)フリーイマージョン
事故発生タイミング競技中
前日の睡眠時間7時間
普段の平均睡眠時間7時間
事故前の心境問題なし
事故前の体調問題なし
個人普段の食生活問題なし
定期トレーニングなし
酒・たばこなし
体格・性格等-
本人見解

事故までの経緯、練習内容の詳細、自分なりに考えた原因と反省点および今後の課題等

自分の前の2選手が、ボトムでランヤードの引っ掛かりがあったこと(原因判明し、自分の潜行前に 問題が解決)、潜行ロープが無限練習時のロープより細いことが気になったが、潜行と同時に頭か らは消えていた。潜行はスムーズにできた。課題の30m台での耳抜きもできた(注1)。ボトムでタグ が見えた。手を伸ばして取るには、少し距離があるかと思ったが、左手を伸ばして取ろうとした。 やはり、少し遠いため、タグが取れず。少し潜行して再度、左手を伸ばしてタグを取り、右手にとり つけた。浮上開始、得に問題ない。浮上途中で、潜行ロープ反対側のロープのウェイトを 確認した。直感的に-30mぐらいまで浮上したと考えた(70m台潜った人間がいるのだから、 100mロープかと考えた。)。ロープを手繰った感覚からすると、思った以上に浮上していないと 感じた。しばらく浮上を続けた。海面の明るさを視認したものの、海面は見えず、まだかと考えた。 ダイコンからピーピー鳴る音を聞いて、浮上速度が速い、(速いことが)まずいかなと考えた。(注2) 眠りから起こされているような感じがした。寝過ごした、オフィシャルトップの許容時間を越えてしま ったと思った。そのあとすぐにBOしたことに気づいた。

-20mぐらいまでは、意識ある状況で浮上していたのではと考える。ダイコンの音が鳴るまでは、 意識があったのだから、海洋でダイコンの鳴るのがいつからかを確認すれば、深度が判明する。(注2)

注1:30m台で耳抜きをしたが、一回余分に行った可能性あり。余計な耳抜きが、肺の中の空気 量を減らし、浮上するときの酸素濃度低下を早めた可能性がある。

注2:ダイコンの音は、浮上深度・速度ではなく、ダイブタイムの設定で鳴ったのではないかとの指摘 あり。確認必要。 危険は海面付近と考えていた。水深20m付近で、息苦しさを感じることなく、突然意識がなくなる BOを想定していなかった。体が急激な酸素濃度低下に対して、弱い体質であることに に気づいていなかった。

>・前回のBOによる反省後、なぜ今回もBOになったのか
>・なぜ反省が生かせれなかったのか、反省点が不足していたのか

前回のBOは、海面浮上後の油断が原因で起きたことが主な理由と考えていた。今回は浮上時に 海面付近で歯を食いしばって頑張れば、意識を保ったまま浮上できると誤った考えを持っていた。

>・今回、何が原因でBOしたのか

体の中に海面まで浮上するのに十分な酸素が残っていなかったことが原因でBOした。 息がもたない(可能性がある)距離だということを認識していなかった。 ・今後、どうすればBOを予防できるのか (1)BOをした次のターゲットは、深度設定を安全に深度にする。安全な深度で数回ターゲットを成功させ てから、BOをした深度にチャレンジする。 (2)いつまでに目標を達成したいという強い思いが判断を誤らせた。今後はいつまでという考えを持たな いようにする。

過去にプールでのBOを見ていて、大きな問題に発生していなかったことから、BOを軽くみていた。 BOが後遺症を残す可能性があることは、聞いて知っていたが、注意を払っていなかった。今回 競技終了後から、ふくらはぎが硬直して、歩行が思うようにできなかった。また、大深度のせいかもしれ ないが、肺をいためて、坂道ではうずくまることもあった。後遺症的な問題を経験した。 BOをしたときに、息を吐いて、海水が肺に入った場合、海水の中の雑菌が肺を侵し、重大な後遺症 をひきおこす恐ろしさを知らなかった。 今後BOは、したくないと考えた。後遺症の問題を強く認識していれば、無理な申告はしていなかった。

サポート見解

事故までの経緯、徴候、事故後の対処、そのた他気づいた点等

【オフィシャルセキュリティ見解】
事故の経緯
浮上一分前のアナウンスを合図に潜行を開始、16m付近で選手と遭遇し同行浮上を開始。
その時点で断続的な、ウッ、ウッっという唸り声が聞こえる。顔を覗き込むと目を見開いていて、 こちらの方は見えているかどうか怪しい状況であったが、力強くロープを引っ張りながら浮上を 継続していたので経過を観察する。
12m付近で動きが停まったので、頭部を確保、口を押さえた状態で浮上を開始。浮上間近で口 から空気を吐き出し始めた。
浮上後、水面のスタッフとともに選手を確保、マスクをとって息をするように声をかけたり、息を吹 きかけたり、ほおをなでたりするも、なかなか意識がもどらなかった。20"30秒ぐらい経過しただ ろうか、ようやく意識を取り戻す。本人はしきりに”寝ちゃってた?”と繰り返しており、深呼吸をす るようというこちらの指示には従わなかった。
その後、救護船まで牽引し船上への引き上げを補助、引き上げられるまで経過を観察していた が、船上に引き上げる際吐き出した痰には血液が混じっているように見えた。
-12mで確保する際には浮上がいきなり停止し、沈み始めたたように見えた。こちらの浮上の勢 いがあったため、実際に沈み始めたかどうかには疑問は残るが、勢いが急に落ちたのは確かに 思われた。このことからウエイトが重すぎた可能性についても確認が必要と考える。

【チーム員サポート見解】
潜行前の様子に異変はないように見受けられた。
透明度が10M未満の状況だったので、私が水面から確認した時には既にM08Aさんは セーフティーダイバーに抱えられていた。 浮上後、仰向けにされたM08Aさんは白目を向いて全く 動かなかったが、その後身体が痙攣し、呻き声がもれた。息を吹き返すまでには20秒もかから なかったとは思う。意識を取り戻した後もぐったりした様子であり、身体への影響が心配された。
そもそも今回の申告深度は、大会の前の週の練習でのBOやその後の様子を考慮すれば、 絶対にトライさせてはいけない深度であった。
サポートの私自身が99%危険だと思っていたにもかかわらず、選手を止められなかったことへの 責任は大きいと反省している。

【チーム員選手A見解】
無理な申告について
一言で言えば「無謀」だったとしか言えません。かなりの確率でBOすると思いました。
TFCの記録会での申告深度なんで本人の意思を尊重して申告深度に関しては,事前に話し合うこと はしませんでした。今までの経緯から話し合いや良好のコミュニケーションが取れるとは思えなかった。
前々日の練習会で、「透明度が悪過ぎる」「潜ったら暗くて怖かった」等の話をしていたので初めての 真鶴の海では申告深度を自主的に少しは下げるかな?という一部の期待があったが、 本人がその点を考慮する事は無かった。仕方が無いので、大会委員長や、セキュリティスタッフに注意 をお願いしました。

【チーム員選手B見解】
普段の練習でバディを組むことが多く、また、大会当日も一緒に参加していながら、 未然防止ができなかった身として、見解と反省を述べる。 シーズン全体を通し、当選手の雰囲気としては、深度更新を焦っていることが感じられた。 普段の練習後には、最大の課題は30m以深の耳抜きであり、酸欠の限界はさほど心配無い と、よく聞いていた。しかし、練習で40m前後に潜った場合、浮上直後のしぐさが非常に 苦しそうに見えることはあった。 今になって考えると、体調次第でも、40mへの往復でそろそろ酸素消費量の限界が近い 場合があるということは、52mに潜った場合、浮上中の‐20m時点でBOに至る可能性は、 予見できたと言える。 予見するためには、申告52mの達成目途について、事前に十分問い質す必要があった。 一緒に練習・大会に参加しておりながら、もっと親身になった議論ができず、結果的に 大切な潜り仲間を危うく失う可能性もあった(BOとはそういうもの)ことに、恐怖を感じる。 また、この「申告値を聞いた時点で問い質すべき」というような考えは、今回が初では無い。
※HP掲載のBOレポート100403(1)pool参照
そういう意味では、BOレポートが有効に生かされなかった再発事故とも言える。 従って、私がここでいくら反省を並べても、我ながら説得力が無いと思う。 もっと実効力のある再発防止策として、「自己ベストチャレンジ申告シート(仮称)」の フォーマットを作成し、導入を提案する。

【チーム員選手C見解】
普段の練習時のSPの具合(状態)からいくと、本番でベスト+3mは周りから注意をしなければいけ なかった状況でしょう(私も大いに反省)、本番の前の週でもブラックアウトしていたことは私も当日は知 らなかったことで重大事項のチーム内の情報周知にも問題があります、あと大会に出るにあたり初めて ということもあり事前に経験者に聴取する等、大会での緊張やいつもとの海況の違いがいかにパ フォーマンスに影響を与えるかという慎重度が申告深度から見ると足りなかったのではないか? これは本人だけでなく経験者からアドバイスすればよかったことですが(私も大いに反省)。
また、ホワイトカードを獲得するというミッションを軽視していたこともBOの要因ではないかと思います、 普段の練習時はともかく大会ではホワイトカードを取るために自分の自己ベストより低い深度の 申告をすることも十分にありえるということの認識はあったか?イエローでもベスト記録が残ればという 思いはなかったか?結果としてのイエローはまだいたしかたないが最初からイエロー覚悟だと BOのリスクは非常に高いといえよう、が、このあたりの感覚はフリーダイビングを競技スポーツとして 捕らえていないと見えにくいことで、競技スポーツとしての フリーダイビングにはあまり執着(興味)がない人に陥りやすい落とし穴ともいえるのかもしれません。

補足

※ 直接的な原因は、本人の記録へのあせりと、BOに対する認識の甘さ大きく影響していたと思われます
※ また、他のチーム員からのアドバイスを聞こうとせず、コミュニケーションをとろうとしていなかった 点も問題でした
※ 本人とは後日面談の上、「危険性」については概ね理解いただけ、再発防止に尽力することを約束 いただけましたが、チーム員等の仲間とのコミュニケーションの面で解決の目処がたたなかった ため、残念ながら退会していただくことになりました。